日本の税制では、原則として親子や兄弟を含め、個人から財産をもらった時には贈与税が課税され、相続等により取得した財産に対しては相続税が課税されることになっています。
つまり、財産を有している以上、いつかはそれらの財産を誰かに引き継いでもらうことになるので、贈与税と相続税の制度やしくみを十分に理解したうえで計画的に財産を移動させなければ、財産を引き継いでもらった方に思わぬ税金の負担を強いることにもなりかねません。実際、税金対策が不十分であったために、せっかく譲り受けた不動産等を税金の支払に代えて国に物納しなければならなくなるケースもあります。
ここでは、相続対策を中心に生前贈与の必要性や方法を紹介させていただきます。
人が亡くなり相続が開始すると、原則として遺産を引き継いだ人に相続税が課税されます。
相続税の計算方法は次のとおりです。まず各相続人の課税価格を次のように計算します。
相続税は、課税価格合計額から基礎控除額を差し引きした額(「課税遺産総額」といいます)に対し、法定相続分で分けた場合の税率を掛けて算出します(ただし、実際の納税総額は、相続する人によって、税額控除や加算があるため、ここで算出した相続税額の総額と一致するとは限りません)。
平成27年1月の税制改正により、この基礎控除額が「3,000万円+600万円×法定相続人数」と、これまでの6割に減額されることになっています。また、相続税の税率も2億円超の資産がある一部の方について税率が上げられています。
これまで財産の総額と、法定相続人の人数から、相続人は相続税を支払う必要がないだろう(または少額の相続税を支払うだけで済む)と思われていた方の中でも、多額の相続税を支払わなければならないケースが増えると予測されます。そのため、節税対策として、事前に生前贈与をして、相続の際に相続税を課税するもととなる財産を減らすことを検討する必要があるのです。
ここまで生前贈与の検討の必要性をお話しましたが、生前贈与とは相続対策のうち節税対策(相続税が課税されるもととなる相続財産(課税価格)をいかに少なくするか)の一つの手法です。以下、相続対策についてどのような方法があるのかご説明します。
節税対策 (相続税が課税されるもととなる相続財産をいかに少なくするか) |
生前贈与の実施(特例の活用) 不動産の評価額の引き下げ |
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納税対策 (相続税が課税される場合、その資金をどのように準備するか) |
資産の現金化・保険の活用 |
相続(争族)対策 (相続が発生した場合、相続人間の争いをどのように防ぐか) |
資産の分割 遺言の活用 |
相続対策をはじめる前に最初にすることは、総財産の確認です。ご自分の財産リストを作成してみましょう。財産とは主にどのようなものがあるかは次の表をご参照ください。積極財産(預金や不動産等のプラスの財産)だけでなく、消極財産(マイナスの財産)も書き出します。
相続税の計算をする際には、相続財産を算出するために上記の財産を評価額にて合計し、その金額から法定相続人数で計算した基礎控除額を差し引きして相続税額を計算し、納税額があるようであれば、生前贈与等の対策を検討して行く必要があります。
生前贈与の方法には次のようなものがあります。併用して使える制度・使えない制度がありますので注意が必要です。詳細については当事務所までお問い合わせください。
(具体的な税金の計算等は、税理士の業務範囲であるため、当事務所では行っておりません。あらかじめご了承くださいませ。お客様の必要に応じて、資産税に詳しい税理士のご紹介をさせていただくことも可能です。)
贈与税は、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与によりもらった財産の価額を合計し、その合計額から基礎控除額110万円を差し引いた残額に税率を掛けて計算します。つまり、年間110万円までの贈与は贈与税がかかりませんので、生前に毎年、110万円までの金額を贈与することにより相続財産を減らすことができます。
※但し、毎年決まった日に一定額を贈与している場合、「定期贈与」とみなされ合計額に対し贈与税が課税される場合がありますので、ご注意ください。
父母や祖父母などの直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合、贈与を受けた年の翌年3月15日までにその住宅取得等資金を自己の居住の用に供する家屋の新築若しくは取得又はその増改築等にあて、その家屋を同日までに自己の居住の用に供したとき又は同日後遅滞なく自己の居住の用に供するときには、住宅取得等資金のうち一定金額について贈与税が非課税となります。但し、受贈者が贈与を受けた際に20歳以上であることや、贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下であること等の条件を満たさなければなりません。
非課税限度額 | 平成26年 |
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省エネ住宅の場合 | 1,000万円 |
その他の住宅の場合 | 500万円 |
婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除(配偶者控除)できるという特例です。対象となるのは法律婚をしている夫婦のみで、事実婚の夫婦ではこの特例は適用されません。また、同じ配偶者からは一生に一度しかこの特例の適用をうけることができません。
この制度は、贈与時に贈与財産に対する贈与税を納め、その贈与者が亡くなった時にその贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額とを合計した金額を基に計算した相続税額から、既に納めたその贈与税相当額を控除することにより贈与税・相続税を通じた納税を行うものです。類計で2,500万円までは贈与額が非課税とされ、超過した額にのみ一律20%の贈与税が課せられます。贈与財産の種類、金額、贈与回数に制限はありません。(基礎控除110万円との併用はできません。)
贈与者は65歳以上の親、受贈者は贈与者の推定相続人である20歳以上の子(子が亡くなっているときには20歳以上の孫を含みます。)とされています(年齢は贈与の年の1月1日現在のもの)。
この制度は資産の先渡し(資産を先に子などに譲渡することにより、有効に資産を活用できる)という意味ではメリットがありますが、相続時に、贈与時の価格で持ち戻し税金の計算をするため、相続時に不動産の価格が贈与時より下がっていた場合は、かえって相続税が増えてしまう結果になることもあります。そのため、この制度の利用については慎重に検討することが必要です。
平成25年4月1日から平成27年12月31日までの間に、祖父母(贈与者)が、金融機関に子・孫(受贈者)名義の口座等を開設し教育資金を一括して拠出した場合等に、子・孫ごとに1,500万円を限度として非課税とする制度です(学校以外の者に支払われるものについては、500万円が限度となります)。 教育資金の使途は、金融機関が領収書等をチェックし、書類を保管します。 孫等が30歳に達する日に使い残しがあればその額に応じて贈与税が課せられますので注意が必要です。また、この特例は基礎控除110万円との併用ができます。
土地や、その上にある建物を人に賃貸すると貸宅地や貸家建付地となり、その不動産の評価額を下げることができます。しかし、評価額を下げるためと安易にマンション等を立ててしまうと、多額の建設費のために借金を背負うことになり、思うように借主が決まらない場合などには、返済の資金繰りに苦労する結果になってしまいます。駅から近いなど借りる側のニーズにあっている不動産の場合は良いですが、そうでない場合は、売却してその資金で駅近の中古の賃貸物件を購入してしまう方法もあります。
また、被相続人が事業や居住用として使用していた土地については、相続財産の評価額が減額される、「小規模宅地等の評価減の特例」の制度がありますので参考にしてください。
相続財産の大半を不動産等が占めているなどの場合、相続人が多額の相続税を支払うにもその資金を準備することができない場合があります。このような場合、せっかく不動産を相続しても、現金で税金を納めることができないため不動産で支払う(物納)などの悲しい結果になってしまいます。そのため、納税資金を確保するために、@あらかじめ一部を売却するなどして相続財産を現金化しておく、A受取人を相続人とした生命保険に加入しておき、相続発生時には相続人が受け取った死亡保険金を納税資金に充てられるようにしておく、などの対策が必要です。
相続財産が現金や預貯金のみである場合、出金・解約して相続人で分配すればよいですが、実際はそのようなことは稀で、相続財産に不動産、事業用資産等があり、それを相続人の一人に引き継がせたい場合などには、どうしても他の相続人とのアンバランスができてしまうことが多いものです。この場合、不動産等を売却・現金化して他の相続人と分けるという方法(「換価分割」といいます)を避けるためには、不動産等を引き継ぐ相続人が他の相続人に対して、当該不動産の相続分に見合う額の現金を支払う(「代償分割」といいます)方法を選択しなければならず、その原資の準備が必要となります。上記納税対策と同様、資産の一部を現金化しておいたり、不動産や事業を引き継ぐ相続人を死亡保険金受取人とする保険契約等の加入により、死亡保険金を他の相続人への原資に充てられるようにする等の対策も必要となります。
事業をされている方の場合は、その事業用資産等を後継者が引き継げるように準備しておかなければ、事業の継続は見込めません。生前から承継の準備を進めておく必要があります。
相続財産の引き継ぎについて、後々の相続人間の争いをさけるためには、遺言の活用をおすすめします。
生前贈与等についてのご質問、お悩み事がございましたら当事務所までお気軽にご相談ください。
面談時には、財産等がわかる書類やメモ等に控えたものをお持ちいだければ、より具体的なお話をさせていただくことができます。お客様のご希望に応じて、生前贈与のアドバイス・遺言書の起案・作成のお手伝い、贈与契約書等の作成・不動産の名義変更登記等の手続きが可能です。もちろんご相談のみでも構いません。(具体的な税金の計算等は、税理士の業務範囲であるため、当事務所では行っておりません。あらかじめご了承くださいませ。お客様の必要に応じて、相続税・資産税等に詳しい税理士をご紹介させていただくことも可能です。)
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